【サッカー】日本選手のスピードが遅いのはなぜか

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U23はトゥーロン国際で、ギニアに勝利したものの予選リーグ敗退した。
国際経験の不足が露呈した感じだが、見ていて思うのは「遅い」ということ。
判断が遅い、反応が遅い、パススピードが遅い、攻めが遅い……と、遅いことばかりが目につく。
シュートを打つタイミングも、ワンテンポ遅いために、打ち切れなかったり、ブロックされたりしてしまっている。枠に飛ばないシュートも問題ではあるが、まだ打てているだけマシ。もっと問題なのは、シュートを打てずに終わってしまうことが多いことだ。
アジアでは優勝できたが、世界基準のスピードについていけないようでは、オリンピックでの戦いはかなり厳しいと思う。

パラグアイ戦後の原川選手のコメントでは……

ほぼ10代のパラグアイに惨敗 原因は試合経験不足? U-23の致命的弱点 – ライブドアニュース

「(パラグアイは)たいして強いとは感じなかったが、賢さがあった。(日本が)ボールを持ってチャンスを作るなかで、向こうはミスを狙っていた。その抜け目のなさは、Jリーグでは感じられないものだった」

「抜け目のなさ」というよりは、ヌルいスピードでプレイしているから、相手にしてみたら奪いやすいということだと思う。
Jリーグの試合を見ていると、ゆるくて丁寧なパスが普通に通るので、その感覚が染みついているのだろう。まるで、パスは通してあげるのが礼儀といわんばかりに、ガツガツ奪い行くことは少ない。全体的にゆったりと試合は進むので、野球の表と裏みたいな攻守がはっきり分かれた展開だったりする。
ブンデスリーガやプレミアリーグを見ていると、ビデオを2倍速で再生しているかのようなスピードで展開する。
ビシッ! バシッ! ズドンッ!……と、効果音の書き文字を入れたくなる。
あのスピード感のあるサッカーを見ていると、Jリーグのサッカーはルールが違うのか?と思ってしまう。

A代表のキリンカップのメンバーが発表され、ハリルホジッチ監督が苦言を呈していた。

ハリル監督、国内組に“毒”演会「スピードが違う」「このままでは手遅れだ」 : スポーツ報知

 代表メンバーのリストを手にしたハリル監督のテンションがどんどん上がっていった。1時間半に及ぼうかという独演会。その怒りの矛先は国内組へと向けられた。「Jリーグを見た後、家で海外の試合を見てください。戦う意識、プレーのスピードが違う。バイクに乗っている人とフェラーリぐらいの違いがある」。独特の表現で欧州と日本の差を表現した。

Jリーグと欧州リーグの試合を見ている人が、みんな感じていることだね。
バイクはバイクでも、HONDA CB1300 SUPER FOURクラスなら、最高速で200km/h以上は出せるから、フェラーリと条件次第では有利に戦える。
「スピード」といっているのだが、それは走るスピードではなくて、プレイのスピードのこと。単純に走るだけなら、足の速い選手は日本にもいる。
プレイのスピードとは、言い換えるなら「リズム感」だ。
ドリブル、パス、シュートなどの動作を行うときの、リズム感。日本の選手は、ワンテンポ遅い。それは時間にしたら、数ミリセカンドのわずかな差だが、そのタイミングのズレによって、パスがカットされたり、ボールを奪われたり、シュートタイミングを逃すことになっている。

リズム感は、日々の生活の中で培われるものだ。
もっというと、言語にも関係している。日本語は文字すると、漢字を含むため少ない文字数で多くの情報を内包できる特徴を持っているが、発音する「音」としても少ないのでテンポの遅い発話だ。
日本人が英語を聞き取るのが苦手なのは、1語に含まれる「音」が多くて区別できないからでもある。
たとえば「国際」という単語であれば、日本語は「こくさい」と4つの音なので口の動きは4回だけ。英語では「International」で、音節が「in・ter・na・tion・al 」、発音記号では「inṭɚnˈaʃ(ə)nəl」と、口の動きは9~10回くらい動かすことになる。1語の発話時間としてはほぼ同じでも、刻むリズムがぜんぜん違う。こういう日常がリズム感の違いになってくる。

その傾向は、音楽で顕著だ。
日本の歌は、基本的に1つの音符に1つの「音」を乗せる。英語の歌は、1つの音符に1語を乗せることもあるため、楽譜だけでは表現できない「音」が含まれる。
【例】Let it Be(The Beatles)

Let it Be(The Beatles)

Let it Be(The Beatles)



【例】365日の紙飛行機(AKB 48)

365日の紙飛行機(AKB 48)

365日の紙飛行機(AKB 48)



「365日の紙飛行機」で……
あさのそら……と、5つの音符に5つの音だが、
「Let it Be」では……
When I find myself……で、発音をカタカナ表記すると「フェナイファイセル」と、日本語感覚ではかなり詰まっている。
曲のテンポ的には似ているが、音の刻み方は英語の方が細かい。単語によって刻み方が違うので、変則的なリズム感になる。
余談だが、昔の英語教科書では、カタカナ表記は実際の発音を無視した表記をしていた。「フェン アイ ファインド マイセルフ」というのが昔風、最近では発音に近い表記で、ほとんど発声しない部分は省略するか小さく表記するので「フェナイファイセル」となる。
この言語のリズム感は、ドイツ語、フランス語、スペイン語などでも同様だ。
私はロック系の洋楽ばかりを聴くが、こういうリズム感の違いは、リズム楽器であるドラムやベースの変則的なリズム進行に顕著に出てくる。そこが好きなのだが、日本の楽曲にはそれが少ない。
日本人選手が、欧州の選手についていけないのは、リズム感の違いが大きいと思う。

野球の日本代表がWBCで世界一になれたのは、リズム感が日本人に合っているからでもあった。
ピッチャーはバッターがちゃんと構えるまで投げないし、守備はバッターがスイングして「カキーン」と打ってから、「用意ドンッ」で捕球して投げる。盗塁は走ってもいい場面は定められているし、タッチアップで走るときも捕球してからでないと走れない。タイミングを合わせることが前提なので、日本人のリズムに合っているわけだ。
サッカーは常に流動的で、コーナーキックやフリーキックのように「用意ドンッ」の場面は限られている。
しかし、Jリーグのサッカーは、静と動がはっきりと分かれる野球的な展開になっていることがある。日本人のリズムになってしまっているんだ。

海外で活躍している、香川、本田、岡崎といった選手たちは、長く海外選手たちとやっていることもあって、リズム感が欧州化していると思う。好調時の香川選手の反応の良さやリズム感は、日本人離れしている。だから、通用する。
日本代表の中で香川が本領を発揮できないのは、周りの選手たちのリズム感が香川と合わないからだと思う。海外組は合うのだが、国内組が香川のリズムについていけない。U23の選手たちが、パラグアイやポルトガルの選手たちについていけなかったように、日本代表のチーム内でも海外組と国内組のリズム感が合っていないんだ。
結果として、海外組が国内組のリズムに合わせてしまうため、遅攻になっているように思う。速い方に合わせるよりも、遅い方に合わせる方が容易だからだ。

この「スピード感を速く」という問題は、簡単には解決できない。
日本人同士が大部分のJリーグでは、妙な暗黙の了解みたいなのがあるようで、無理なプレイはしない傾向にある。一種の同調圧力だが、ケガをしないように、ケガをさせないように、ファウルはしないように……という、自覚されていないブレーキが働いているように思う。
レギュラーの半分以上が外国人、というような状況になれば変わるだろうが、なかなかそれも難しい。
サッカーのリズム感については、過去記事でも書いた。

諫山裕の仕事部屋〈blog〉 : 【サッカー】ブラジル戦で見えた日本代表の本質

 ブラジル戦を見ていて感じたことは、リズム感が違うということだった。
日本人選手も、一瞬のダッシュや素早いパスはできる。しかし、ボールを保持しながら、相手を翻弄するステップを踏み、何度も切り返し、なおかつ前に走る……といった連動ができない。ネイマールがすごいのは、その一連の動作を軽やかなリズムでこなしていることだ。
日本は、そのリズムについていけない。
音楽にたとえれば、日本人は4ビートで、ブラジル選手は16ビートだ。つまり、サンバのリズムなのだ。サンバは厳密には4ビートだが、打楽器中心の音楽なので、1ビートを4拍で刻むため、実質的な16ビートとなりリズミカルな曲になる。
演歌の日本人とサンバのブラジル人……という感覚かな。
あのリズム感は、育った環境の違いでもあるので、その差はおいそれとは埋まらない。リズム感は生活の中にも反映されるから、普段の生活から16ビートに馴染まないと、ネイマールとダンスは踊れない(笑)。
日本選手が遅いのは動きのスピードではなく、動きのリズム感なんだ。
これを改善しようと思ったら、日頃聞いている音楽から変えなきゃダメだと思う。選手は移動中にイヤホンで音楽を聴いている人が多いが、その耳に響いている音楽はなんなのか? 演歌じゃだめだし、AKBでもだめ。日本の曲の多くは、スローテンポな4ビートなので、大部分はリズム感が遅くなってしまう。洋楽ROCKのメタル系なんかだと、かなり早いリズムのものがある。そういうのを聞いて、リズム感を養うことから始めなきゃいけない気がする。

まぁ、そういうこと(^_^)。

オリンピックは楽しみにしているが、日本チームが初戦に勝つのは、かなり厳しいだろうね。
初戦に負けると、ズルズルと負けてしまうと思うので、いかに初戦の壁を乗り越えるか。
運も影響するが、幸運を願うことしかできないのが悲しいところ。
ともあれ、応援はする。
がんばってくれ。

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