電子ブックは否応なく普及していくだろうが、かといって「紙の本」が絶滅することはないだろう。
 私は電子ブック推進派ではあるが、「紙の本」との棲み分けは必要だと思っている。
 「1つのタブレットに何千冊もの電子ブックを入れて持ち歩ける」……といったキャッチコピーがあるが、じつのところ何千冊も持ち歩く必要はない。
 そもそも一度に読めるのは1冊の本。
 器用な人は複数の本をとっかえひっかえで読めるかもしれないが、「読む」ときには1冊の本、1つの作品だ。
 速読できる人は、数分で文庫本1冊を読んでしまえるが、普通の読書スピードだと、数時間はかかる。読書好きであれば次から次に本を読んでいくかもしれないが、せいぜい1日1冊、あるいは週に1冊、たまにしか読まないのであれば月に1冊くらいだろう。
 タブレットに何千冊も入っている必要はないのだ。そのとき読みたい本が、1冊あればこと足りる。
 このことについて参考になる記事が以下。
ユーザ無視でニーズない電子書籍普及カギはiTunes?(3/5) | ビジネスジャーナル

 日本全国で新刊書が手軽に入手できる上に、新古書店や古書店も多くある。図書館も多く、ネット書店も充実している。日本人は本に飢えていないのだ。読みたいと思えばいつでも本は簡単に読める。

 そして、日本人の読書量はそれほど多くない。08年に文化庁が実施した調査では、1カ月に1冊も読まない人が46%、1~2冊の人が36%にも上った。雑誌やマンガを除いて、という条件だとはいえ、かなり少ない。月7冊以上読む人は3.3%。本よりもマンガを読むという回答は13.4%、マンガしか読まないという回答が2.6%にとどまっている。電子書籍端末が1000冊入る、2000冊入ると自慢したところで、日本人の8割は月に2冊も本を読めば上等という状態なわけだ。

 この状況で、電子書籍ビジネスはどこを目指して進むのだろうか?

 将来的な電子ブック市場の予測として……
――電子書籍ビジネス調査報告書2012発行―― 2011年度の新プラットフォーム向け電子書籍市場規模は112億円 前年度比363%増 ~電子書籍市場全体は629億円、2016年度に2,000億円規模へ成長と予測~ | インプレス R&D

■新たなプラットフォーム向け電子書籍市場の拡大により、
2016年には2011年度比約3.1倍の2,000億円程度と予測
 2012年度以降の日本の電子書籍市場は、ケータイ向け電子書籍市場の減少傾向は続くものの、新たなプラットフォーム向け電子書籍市場の急速な立ち上がりにより、2016年度には2011年度の約3.1倍の2,000億円程度になると予測されます。

 ……という予想もあるが、かなり楽観的な気がする。
 出版全体の市場規模はどのくらいかというと、データが少々古いが……
電子書籍サービス市場は2015年に3500億円超へ――それってどのくらいすごいの? – 電子書籍情報が満載! eBook USER

 この市場規模を相対的に理解するため、紙書籍の市場規模についてもまとめられている。これによると、2010年度における新品/中古の紙書籍(/マンガ/写真集含む)の購入金額は2兆5378億円。このうち書籍が1兆7321億円、/マンガ/写真集」が8057億円とある。つまり、出版市場全体で考えれば、現時点の電子書籍市場はごく小さな市場であるといえる。2015年時点の紙書籍の市場規模については言及がないため比較は難しいが、出版市場の1割~2割程度が電子書籍市場であると考えられる。

 ……ということで、2兆5378億円となっている。
 つまり、約1割は電子ブックになると予想されているわけだ。出版界全体としては年々減少傾向にあり、出版社も苦しくなっているらしいから、2016年には出版の市場規模そのものも縮小していると予想できる。その中で、電子ブックの比率が上がっていくということは、紙の本の占める割合はかなり落ち込むということだろう。
 取らぬ狸の皮算用ではあるが、電子ブックの市場が想定通りに伸びないと、出版市場の減少傾向は加速することになる。
 現状、端末や電子ブックストアは乱立していて、しかも小さなパイの取り合いになっている。いくつかは数年以内に淘汰されて撤退するだろうし、スマホにおけるiPhoneのように決定的な端末が普及しないとブームそのものが冷えてしまう可能性がある。
 4年後に市場が3倍……というのは、理想というか願望のような気がする。

 ひとことに「本」といっても、様々な本がある。
 、実用書、教科書、画集、写真集、雑誌……等々。電子ブックに適しているのは、雑誌、ビジュアル中心の画集や写真集、教科書だろう。
 それらは本としての機能が限定されている。求められる機能が、電子ブックと相性がいいのだ。必要なのは情報としては価値であり、紙の本という形ではないからだ。

 逆に電子ブックに不向きなのが「小説」ではないかと思う。
 なぜ不向きなのかという理由のひとつが、以下の記事にある。

電子書籍にハマらない理由は、「本の厚み」にあった – BOOK STAND|WEB本の雑誌

 新端末の発表や新機能搭載など、賑やかな電子書籍の世界ですが、どうやら良いニュースばかりではないようです。上記の他にも、思想家・武道家・翻訳家の内田樹氏も、本をiPadで読んでも、面白さが「何か」足りない気がすると言います。

 「何か」……、その答えは、「本の厚み」にありました。

 小説は「本」で読みたいと私は思う。
 一気には読めないから、しおりをはさむなどして中断しながら読むわけだが、読んだページと未読のページの「厚み」が少しずつ変わっていく過程。
 それが「読書している」という実感になる。
 残りのページ数が少なくなってくると、いよいよクライマックス……なんだと、読むスピードも上がってくる。
 紙の本には、そうした「感触」がある。
 そして、読了したとき、1冊の本の厚みと重さが、達成感を物語る。
 本棚に並ぶ本は、読書歴を表すトロフィーのようなものだ。
 読んでしまえば、もはや役目を終えた本ではあるのだが、ずっと本棚に並べたままにする。読み返すことは滅多にないが、いつまでも本棚に残しておく。物理的にスペースを食い、空間を占めてしまうが、なかなか捨てられない。
 かといって、部屋の中に収容しておける本の量には限界がある。いつか整理して処分しなくてはいけなくなる。古本屋に持って行くにしても、処分するときは断腸の思いだ。できることなら手放したくない。無限の本棚があれば、たとえ二度と読まないにしても捨てなくて済む。
 本は、読むだけでなく、感動を形として残しておくことに価値があるように思う。
 電子ブックには、残念ながら残しておきたいという欲求はあまり起きない。所有する、あるいはコレクションするといった欲求は満たせないからだ。

 現状、なんでもかんでも電子ブックにしているが、将来的には電子ブックにするものと紙の本にするものとの役割分担が必要になってくる気がする。

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