軌道エレベーターの実現性は低い(1)の続き。

宇宙エレベータ建設が日本の未来を切り開く(前半) : アゴラ – ライブドアブログ

大林組版の宇宙エレベータ
あるモノを世の中に具現化するためには、まずできるだけ具体的にイメージすることが重要であると言われている。その一例としてふさわしいのが大林組の構想だ。

それによると、全体の長さが9万6千キロで、地球二周り以上もある。静止軌道上のステーションが約3万6千キロ上空なので、そこからさらに6万キロ分も反対側にケーブルが延びている計算になる。これはカウンターウエイトのためだ。静止軌道上からケーブルを吊るすと、どうしてもその重力でステーションが地表側に引き寄せられる。それを防ぐためには、遠心力側にもケーブルを延ばす必要がある。例えるなら、立っている人の腕を片方からのみ引っ張ると倒れてしまうため、反対側からも腕を引っ張ってバランスを保つのと同じだ。ただし、そのせいで静止軌道上前後のケーブルは猛烈な引っ張りにさらされる。これに耐えられる強度をもつのがカーボンナノチューブ製のケーブル(又はテザーTether=紐ともいう)と言われている。大林組はまた同軌道上前後のケーブルを太くし、両端へいくほど細くすることで、ケーブルにかかる力を均一にする方法を提案している。

……という、大林組の構想の概略が、以下のページにある。
広報誌『季刊大林』53号(特集:タワー)を発行|プレスリリース|株式会社大林組

建設計画のポイント:ケーブル

ケーブルの長さは96,000km。これだけの長さがあると、クライマー(乗り物)を取り付けただけで、ケーブルは100km以上も伸びてしまいます。また、風などの影響で地球側の末端は10km単位で揺れ動きます。しかも、絶妙なバランスで宇宙空間に「立って」いるケーブルのバランスが崩れると、地球側に落下もしくは宇宙の果てまで飛び去ってしまいます。このような条件のもと、どのようにすれば安全を確保しながら施工できるのでしょうか。

軌道エレベーターの骨格である「ケーブル」が一番の問題であり難題。

カーボンナノチューブがその候補に挙げられているが、CPUなどの配線に使うような微細なものは作れるが、ケーブルのような太さのあるものはまだまだ作れない。
製造方法と製造コストの問題だが、それに関する記事が以下。

TrendWatch: 産総研・日本ゼオン、カーボンナノチューブ製造コストを1000分の1に

産業技術総合研究所と日本ゼオンは、日本発のナノテクノロジー素材であるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を低コストで作る技術を確立し今春にも試験生産を始める。
日経新聞電子版が5日報じた。

茨城県つくば市の産総研内に量産に向けた試作装置を設置した。高性能な単層型を従来の1000分の1以下の1グラム数百円で作れるようになる。

試作装置では直径2ナノ(ナノは10億分の1)メートル前後の単層型を作る。単層型は導電性や透明性に優れ、使い勝手がよい。当面、年産100キログラム程度を計画。安定して連続生産できるよう技術を磨き、最終的に年産10トン程度を目標とする。

従来法だと10分間で数ミリグラムしかできなかったが、数グラムの生産が可能。1グラム数十万円の価格を1000分の1以下にできるとみている。

カーボンナノチューブは今後普及が本格化する電気自動車の補助電源などに使う蓄電装置へのニーズが高まっている。

現在、世界の単層型の生産能力は多く見積もって年7トン程度だという。

……ということで、技術革新は進んでいるわけだが、軌道エレベーターの建設には、膨大な量のカーボンナノチューブ・ケーブルが必要になる。

どのくらいのケーブルが必要なのかというと……

軌道エレベータ – Wikipedia

現在の構想では、最終的にはケーブルの長さ1kmあたり7kg、アンカーまで含めた全体の質量は約1,400トンとなる。建設費は100億ドルから200億ドル(1兆円から2兆円)とされている[14]ただし、実際に十人単位の人を運べるものを建設する場合、値段はより高額となると考える研究者もいる[15]。なお、国際宇宙ステーションの建設・運用には1,000億USドル以上の費用が掛かっているが、こちらはすべてをロケットで打ち上げているため単純比較はできない。

……というような試算がある。
大林組の構想をベースに考えると、ケーブル長が9万6千キロ、1kmあたり7kgとすると、

9万6千キロ×7kg=67万2000kg=672トン

つまり、年間10トン生産しても、約67年かかる計算だ。
まぁ、世界中で大量生産すれば、もっと効率は上がるだろうが、いずれにしてもケーブルを生産するだけでかなりの年月がかかりそうだ。
そういうことから考えても、工期が25年では足りないように思う。おそらく、100年計画だ(^^;)。
25年でも長いが、100年も建設を続けるためのモチベーションというのは難しい。着手して何十年もかかって完成した巨大プロジェクトが、完成したときには無用の長物になっていたという事例は多い。軌道エレベーターもそういう類のものかもしれない。

コスト的には、1グラム100円でできるとしても、

67万2000kg=672000000g×100円=67,200,000,000=672億円

とまぁ、これは最小の試算だ。実際にはナノチューブのままでは使えないわけで、ケーブルとして太くしないといけないから、コストは10倍とか100倍はかかりそうだ。

そう考えると、ケーブルの材料費だけで数兆円~数十兆円はかかる気がする。

役に立たなくなった「もんじゅ」の開発費に20兆円以上も投じたのに比べれば、安いもの……というのも、無理がある。高速増殖炉は「未来のエネルギー」として役に立つと思って始めたことではなかったか? 今となっては役立たずだが、軌道エレベーターも同様の末路を辿るかもしれない。
なにしろ、「必ず完成できる」という保証はないのだ。

「夢」を持つのはいい。
そのことを否定するわけではない。私だって軌道エレベーターが実現可能なら、諸手を挙げて大賛成だ。物語としては面白いが、今世紀中には無理だろうと思う。

軌道エレベーターは建設コスト、運用コストがかかりすぎる。
また、リスクもある。ケーブルが切断すると、巨大構造物が降ってくる。ガンダムのコロニー落としみたいなものだ。そんな事故が起きれば、大惨事どころの話ではなくなる。

世の中、「絶対に安全」なものなどない。リスクは常に背中合わせなのだ。
放射性廃棄物を宇宙に捨てる……という発想も、理屈としてはわかるが、現実問題としては無理がある。地上基地となる赤道上のある地点は、日本の領土ではない。他国の領域だ。そこに世界中の放射性廃棄物を集めるとなると、基地のある国は大反対だろう。一時的にしろ、そんなものを快く受け入れる国などあるとは思えない。

もっと廉価に宇宙へ行ければいいのだ。
反重力、反物質、真空エネルギー……等々、いまだ未知のエネルギーは理論上は存在する。

反重力はかつてはSFの領域だったが、現在では重力に対する斥力として働く未知の力として、宇宙に存在しているらしいことがわかってきた。それがマクロな宇宙に働くだけのものなのか、手に取れるようなサイズでも働く力として存在するのかはわからない。とはいえ、反重力が架空のものではなくなったとはいえる。

反物質は現在の加速器でも作り出すことは可能だ。ただ、大量に作ることができない。作ったとしてもそれを保存する方法、エネルギーとして利用する術がない。しかし、エネルギー変換率100%のエネルギーであることは間違いない。これは、スタートレックの世界になってしまうが。

真空エネルギーも理論上のエネルギーだが、荒唐無稽の世界ではなくなった。
いずれも、遠い未来の話ではあるが、理論的には利用できるであろう未来のエネルギーだ。

軌道エレベーターは、手が届きそうな未来に可能になるかもしれない……ということで、現実的な構想として出てきているわけだが、それでも100年以内は難しいだろう。そこまで技術革新は一直線には進まない。

アポロ計画時代の「夢」では、21世紀には月基地が完成していて、火星に人類が到達し、宇宙に植民が始まっていたはずである。
だが、そうはならずに、宇宙開発は停滞した。

軌道エレベーターの実現性を論じるには、もっと厳密な試算が必要だろう。
建設費用もさることながら、達成しなくてはならない技術的な問題も多い。いまだ実現していない技術を開発する費用は試算が難しい。

加えて、建設したあとの維持費や運用コストも未知数だし、どれだけ儲かるのかはもっと未知数だ。他国に建設するわけだから、完成したときにその国が独占するということだってありえる。あるいは、軌道エレベーターの利権を巡って、戦争だって起こりえる。
理想論だけでは世界は動かないのだから。

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