人工知能(AI)よくある10の誤解の先には……

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AI that mimics the human brain with complex electronic circuitry

AI that mimics the human brain with complex electronic circuitry

現在のAIブームは、かつてのパソコンブームと似ている。
パソコンが普及し始めた頃……1980年代後半〜
パソコンがあれば、なんでもできるような風潮が席巻した。当時のパソコンは、8ビットまたは16ビットの非力なコンピュータであり、OSはMS-DOS、ネットはまだなかった時代。

であるにもかかわらず、パソコンがあればなんでもできるかのような誤解というか幻想が漂っていた。
仕事でもパソコンが使われるようになり、社内でコンピュータを使える数少ないひとりであった私に、無茶ぶりされたものだ。

「これ、パソコンでやってよ」
「無理」
「じゃ、これは?」
「無理」

やってほしいことの内容が複雑すぎて、現在のパソコンでも難しいようなことばかり。だが、コンピュータに詳しくない人たちには、パソコンが魔法の小箱だと思われていた。

AIに関しても、現在のレベルと未来に可能になるかもしれない理想像が混在している。むしろ、可能性の方が先走りしていて、あたかもそれが現在のAIの姿であるかのように認知されている。

そんな誤解を列挙した記事が以下。

結局、AIは使い物にならない!? 人工知能(AI)よくある10の誤解をガートナーが発表 | Web担当者Forum

人工知能 (AI) に関する10の「よくある誤解」

  1. すごく賢いAIが既に存在する。
  2. IBM Watsonのようなものや機械学習、深層学習を導入すれば、誰でもすぐに「すごいこと」ができる。
  3. AIと呼ばれる単一のテクノロジが存在する。
  4. AIを導入するとすぐに効果が出る。
  5. 「教師なし学習」は教えなくてよいため「教師あり学習」よりも優れている。
  6. ディープ・ラーニングが最強である。
  7. アルゴリズムをコンピュータ言語のように選べる。
  8. 誰でもがすぐに使えるAIがある。
  9. AIとはソフトウェア技術である。
  10. 結局、AIは使い物にならないため意味ががない。

 

人工知能とは何か

人工知能とは何か

記事中に、AIの将来予想図があるのだが、2045年に来るだろうと予想されている「シンギュラリティ」は、楽観的予想であって、来ない可能性もある。

このシンギュラリティの時期予想は、度々書き換えられていて、かつてはもっと早い時期が予想されていた。

技術的特異点 – Wikipedia

ヴィンジは、1993年のエッセイにおいて技術的特異点の到来を2005年から2030年の間の時期であると予想した。齊藤元章は2030年よりも前に技 術的特異点が訪れる可能性があるとしている。カーツワイルは、コンピューターの知性が人間を超える時期を2020年代と予想している。

ヴィンジはSF作家のヴァーナー・ヴィンジだが、シンギュラリティを描いた『マイクロチップの魔術師(1981年)』は、古典的名作ではある。※翻訳本は絶版

マイクロチップの魔術師

ネットがまだなかった1981年に、この作品を書いたヴィンジの先見の明には敬服する。この作品が書かれた時期は、第2次AIブームの頃だった。
この時代、すでに私はコンピュータを扱っていた。現在からみれば、電卓に毛が生えた程度のコンピュータの性能で、AIが実現できるはずもなかった。

そして、現在。
コンピュータの性能が飛躍的に向上して、人工知能と呼べるようなものができつつある。
ただし、人工知能の定義はなにか?……というのが問題。
膨大な計算を短時間でこなすのが人工知能なのか?
SFで描かれるような、自我を持つコンピュータが人工知能なのか?
その定義は明確にはなっていない。

シンギュラリティは、コンピュータが人間の知性を超えることを意味しているが、現状のAIの延長線ではシンギュラリティは起こらないのではと思う。

知性」あるいは「」は、デジタルで計算できるものなのか?……という問題。
私はそれを「知性の壁」と呼んでいるが、この壁は容易には超えられないだろう。

関連記事→「知性の壁」は超えられるか?

英語では、知能も知性もIntelligenceなのだが、日本語では意味合いは若干異なる。

知能の意味

  1. 物事を理解したり判断したりする力。「知能の高い動物」
  2. 心理学で、環境に適応し、問題解決をめざして思考を行うなどの知的機能。

知性の意味

  1. 物事を知り、考え、判断する能力。人間の、知的作用を営む能力。「知性にあふれる話」「知性豊かな人物」
  2. 比較・抽象・概念化・判断・推理などの機能によって、感覚的所与を認識にまでつくりあげる精神的能力。

この語釈も、辞書によって異なる。
平たく定義すると、
知能……計算可能な問題処理能力
知性……計算だけではない、社会的、精神的、抽象的な概念の認識能力
という感じかな。

もっと平たくいえば、「」あるいは「」があるかどうか……かな。
では、心や魂とはなにか?……という問題になる。

知能と知性を区別する意味で、以下のように定義しておこう。

計算できる範囲で、人間を凌駕しているのが「人工知能(Artificial Intelligence; AI)
知性や心を獲得するのが「人工知性(Artificial Mind; AM)
心を持った鉄腕アトムは、AMということになる。

前にも書いたが、AIには計算をするためのチップは実装されているが、知性を獲得するためのパーツが実装されていない。
知性は、現在のコンピュータの中に自然発生するものではないだろう。
人間に知性が芽生えるのは、脳という器官があるからだ。コンピュータは脳の全機能を再現しているわけではない。
たとえるなら、スポーツカーのランボルギーニの車体はあるが、エンジンが実装されていないので走ることができない状態。そのうち、V型12気筒DOHCエンジンが自然発生して、爆走できるようになる……と期待するようなものだ。

脳は電気信号によるデジタルな反応と、化学物質によるアナログな反応が、複雑に絡み合って機能する。コンピュータはデジタルな部分だけで、アナログな部分が欠落している。一時期、バイオコンピュータという試みが注目されたりもしたが、その後はあまり進展していない。
脳を模倣することで、人工知性が生まれるとするなら、シリコンチップだけでは不可能だということになる。

知性の壁を超えるためには、脳の中で知性がどのようにして発生するのかを解明する必要がある。
それは脳科学の分野だが、脳が脳を解明しようとしているわけで、ある意味、自己矛盾(^_^)

AI研究と開発は進歩していくと思うが、遠からず知性の壁にぶつかる。
知性の壁を、どうやって乗り越えるのか?
その解決方法が見つからないと、シンギュラリティは起こらないことになる。

 

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