遠い銀河の距離の矛盾

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ケプラーの超新星 (SN 1604) の超新星残骸

ケプラーの超新星 (SN 1604) の超新星残骸。スピッツァー宇宙望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡およびチャンドラX線天文台による画像の合成画像。

天文関係の記事には、途方もない距離と時間が出てくる。
遠くの星を観測することは、宇宙誕生から間もないころの様子を観察することにもなる。
あまりに現実離れした尺度だが、そのために誤解や勘違い、あるいは説明不足が生じる。

以下の記事も、そんな「え?」と思ってしまうもの。

ニュース – 科学&宇宙 – 地球から最も遠い超新星を発見(記事全文) – ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト

 深宇宙の彼方に2つの超新星の微かな光が発見された。現時点で地球から最も遠距離に存在していたとみられる星の爆発現象だ。その光が地球に到達するのに百億年を超える時間がかかっている。今回の観測で、約130億年前のビッグバン後に形成された最初期の星の様子もわかるようになるかもしれない。

研究を指揮したカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の天文学者ジェフ・クック氏は、「今回の超新星爆発は約110億年前の出来事なので、ビッグバンからそれほど時間が経過していない」と話す。

遠い銀河ほど早い速度でわれわれから遠ざかり、宇宙が膨張していることはよく知られている。新発見の超新星2つは現在、地球から180億光年離れた場所に位置している。

赤字は私がつけたが、「約110億年前」という記述と「180億光年離れた場所」という、ふたつの距離が合わないのでは?……と思った。

宇宙の年齢は、現在のところ約137億年ということになっている。
つまり、それ以前の光は観測することができない。したがって、「180億年」という距離にある星や銀河は観測できない……というか、地球にはまだ光が届いていない。

これについて、「ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト」に指摘したところ、わざわざ返信をいただいた。
以下がその回答。

お問い合わせいただきました、ニュース記事についてですが、ビッグバンの起点(宇宙の中心)を挟んで、地球と今回発見された超新星が反対側にある場合に、ニュース記事のような状況は起こりえる可能性がございます。

また、ビッグバンの膨張スピードは、光速よりも早いとも言われているため、その点からも、記事のような状況が起こり得るかもしれません。

ただし、いずれにいたしましたも、お客様に誤解を与えるような記述となっていたことについては、深く反省させていただき、今後の品質向上につなげて参りたいと存じます。

なるほど、そういう説明も成り立つ。

つまり、「180億年離れた場所」というのは、現在観測されている位置ではなく、宇宙の膨張で移動した「推定場所」という解釈なのだろう。

だが待てよ。
そうだとするなら、問題の超新星が宇宙の中心からどの方向に向かっているのか、どの程度のスピードで離れているのか、というのがわからないと場所を推定できない。
記事にはそのあたりのことが書かれていないので、誤解を招く原因となっている。

遠くの星や銀河の話題のとき、そもそも「推定位置」を記述するということはほとんどない。観測されている「観測位置」を書くのが通例で、それは現在位置ではなく光が発した過去の位置だ。
数百億年単位の遠くの星の、移動方向と速度を推定できるものだろうか?……という疑問もある。

いずれにしても「現在の推定場所は~」という表現が必要なのだと思う。

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