想像力の源

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想像力の源

fancycrave1によるPixabayからの画像

 このブログではアクセス解析をしていて、どのページが多く見られているかとか、どういう検索キーワードで来ているかが、ある程度わかるようになっている。
 検索キーワードで多いのは、映画のレビューについてだ。
 ついで多いのがガンダム関係、iTunes関係など。

 そして、ポツポツとときどき検索されているのが「アニメーター」に関すること。
 アニメーターの労働環境や収入面のことを知りたい人が多いようだ。
 私が昔、アニメーターをやっていたことで、当時の体験を書いたりしている。20年くらい前のことではあるが、現在でも一部のアニメ制作会社を除いて、あまり変わっていないのが現状だ。

 その一部の例外的な制作会社に「ジブリ」がある。
 私がアニメーターとして所属していて会社は、完全歩合給だったので、1枚描いて100円という計算で給料が支払われていた。新人アニメーターは、たいした量を描けるわけではないので、月給は3~6万円程度。とても人並みの生活ができるようなものではなかった。
 現在は1枚200円になっているとのことだが、それでも低賃金である。

 ジブリでは、きちんと生活の保障をしてくれる給与になっているという。社内に保育所を作ったりするような会社だからね。ただし、ジブリに入社するのは、かなりハードルが高い。それなりに実力がないと、採用はしてくれないようだ。私の知人(といっても、15歳ほど年下)が入社試験を受けたが、落ちてしまった。彼は武蔵美を出た、それなりに能力のある人だったのだが。彼はその後、別会社を経て、作画監督をするくらいに成長している。

 また、「京都アニメーション」には、社員寮があり、この会社も生活を保障してくれる……というのを、テレビの番組で紹介していた。
 こういう恵まれた環境のアニメーターは、ごくわずかだろう。
 大部分のアニメーターは、いまだに低賃金で長時間労働をしている。

 私のアニメーター時代は、極貧生活だった(^_^;
 電話、電気、ガス、水道の料金を払えなくて、水道以外は止められたこともあった。水道は止めるのがやっかいなので、ある程度滞納しても待ってくれたりした。

 そんなどん底の貧乏生活をしていると、考えることも貧乏になってしまう……というのは、前にも書いた。
 金がないからいつも腹を空かせていて、腹一杯食いたいということしか浮かんでこなかったり、暖房や冷房もないから、寒い冬は部屋の中で吐く息が白くなるほどだった。寒いから、布団を被って寝るしかない。思考回路が麻痺してしまうんだ。
 そんな貧乏に関する記事。

働かないという選択肢はない 今も大バクチの最中 | キャリワカ:キャリアアップ | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

人間って、お金がないと、考えなくなるんですよ。これって貧困の知恵なんだね。

 “想像力”というのは、ある程度豊かで、人として成り立ってるからこそあるものなんです。

 体験者として、すごくよくわかる(^_^)
 想像力というのは「夢」と言い換えてもいいが、貧乏していると夢はどんどん小さくなる。大きな夢なんて、現実離れしすぎていて、考えるのがばからしくなってしまう。
 小さな夢とは、たとえば食事がインスタントラーメンばかりだと、
「たまには唐揚げ弁当が食いてぇ」
 というような夢だ(^_^)
 そんな些細なことが夢になってしまう。

 アニメーターから転職して、グラフィックデザインの会社に雇ってもらったとき、私の恩人であり恩師ともなった社長からいわれたことがある。
「美味しいものを食べて、いい服を着て、面白いものをたくさん見なくてはだめだ。いいデザインをするには、「いいもの」をたくさん知らなくてはいけない」
 社長は美大出の絵描きでもあったので、私に美術的なテクニックも叩き込んでくれた。絵は自己流で描いてきたので、社長が師匠になった。

 毎日、仕事とは関係ないデッサンを課せられた。まるで、学校に行ってるような感覚だったが、社長は私を鍛えてくれたのだ。それが、のちに私の大きな財産になった。
 事情があってその会社は辞めることになってしまったが、社長のことは今でも尊敬している。風の便りに、社長はその後、会社をたたんで引退したという。

 アニメーターにもいえることだが、極貧の生活では、仕事でも最高の仕事はできないだろう。
 金銭的な貧乏は、想像力も貧乏にしてしまう。質の高い作品を作るには、ある程度の豊かさ……余裕が必要だ。ジブリがあれだけの作品を作れるのは、そこで働いている人たちの生活ぶりも少なからず影響していると推察する。

 私が働いていたアニメ制作会社には、ぜったいに作れないレベルだというのは断言できる。その会社は今でも存続しているのだが、相変わらず下請け制作会社にとどまっているようだ。
 ハングリー精神がどうこうという言い方があるが、食べるのに苦労するほどハングリーだと、質の高いクリエイティブな仕事など、できはしないのだ。

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