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 さっきから涙が止まらない……
 会社で仕事中だというのに……
 それは以下の記事を読んだからだ。

28:ヒーローになるとき、それはいま(前編):NBonline(日経ビジネス オンライン)

 彼の名は、リュウジといった。
 20歳の夏に知り合った友人だった。だから、もう四半世紀も前のことになる。

 いつもの降旗氏の記事だと思って読み始めたのがいけなかった。
 最初のページから、なにか様子が変だった。いつものウケ狙いの脱線やダジャレもないし、淡々と文章が書かれていた。

 読み終えて、亡くなった親友のことを思い出した。
 私と同郷で、田舎にいる頃に知り合い、夢を語り合った仲間だった。
 私が先に上京し、その後、彼も上京してきた。私は下戸だが、一緒に飲みにも行ったし、一緒に仕事もした。互いにフリーランスで仕事をしていた頃には、仕事を手伝いあったりもした。
 彼が私のアパートに泊まることもあったし、私が彼のアパートに泊まったこともあった。田舎から出てきた者同士で、励まし合う意味もあったのだと思う。

 上京して、5年が経ち、10年が経ち……と、月日は流れていった。
 以前ほど頻繁に会うことはなくなったが、年に数回はイベント会場で顔を合わせた。共通した趣味があったから、その趣味のイベントに行けば会える確率が高かったのだ。
「また、そのうち、みんなで飲みに行きましょう」
 彼は挨拶代わりに、いつもそんなことをいっていた。お酒が大好きなヤツだったのだ。

 亡くなる少し前に、電話がかかってきた。
「○○くんの結婚祝いに、みんなでお祝いパーティーをしましょうよ」
 ○○くんは共通の友人だった。
 彼は互いの共通の友人たちに、同じように声をかけていた。

 だが、そのパーティーは実現しなかった。

 みんなの都合がなかなか合わず、いつのまにかお流れになってしまった。
「まあ、そのうち、また機会を作りましょう」
 彼はそういっていた。
 私も、そのうち会えるさ、と思っていた。これまでだって、そうだったのだ。会う約束をしていなくても、イベント会場で会うことは度々だったからだ。

 しかし、その機会は、永遠に失われてしまった。

 訃報を共通の友人からメールで受け取ったとき、絶句した。
 なに?
 なんなんだ、これは?
 信じられなかった。
 私よりも若い彼が、先に死んでしまうのか?

 ショックではあったが、泣くことはなかった。
 ただ、ただ、驚いていた。
 葬式に出席して、友人たちとも再会した。
 彼は、列席者の一番前……棺の中だった。

 おまえは、なぜ、そんなところにいるんだ?

 それでも、涙は出てこなかった。
 現実感がなかったのだ。

 パソコンのメールソフトの中に、彼から届いたメールが今でも残っている。
 彼からのメッセージは、生きていた頃から褪せてはいない。
 つい、昨日届いたばかりのメールのように。

 葬式でも泣かなかったのに……
 降旗氏の記事を読んで、彼のことを思い出し、涙が止まらなくなった。

 今頃になって、泣けるなんて……
 降旗さん、ずるいですよ。
 この記事は……。

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