火星についての大きな誤解

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火星移住の想像図(NASA)

火星移住の想像図(NASA)

 火星の探査が進んでいて、新しい発見が続いている。
 1976年に火星に着陸したバイキングによる探査で、火星の生命の存在の可能性はいったんは否定された。
 その後、火星から飛来した隕石から、生物の痕跡と思われる化石が見つかって、火星の生命が再び注目された。これについては異論も多いが。
 そして、今回のフェニックスでは水の存在が確認され、かつて生命が存在した可能性が高まっている。現在の火星に生命がいるかどうかも注目されているが、もしいたとしても、地球から探査機が持ち込んだ汚染だった……などというオチになるかもしれない。もっとも、それがわかるほどの観測機器は積んでいないのだが。

 火星関連の記事で、トンデモに相当するものがあった。

ヴォイス・オブ・インディア – 地球以外の惑星で生活できるようになれば

ここで疑問が湧き上がる。もし火星で生命体が生存できるようになったとしたらどうなるのか?

私の見解は2つある。1つは、地球上の人口増加が軽減するのではないかということだ。つまり、多くの人たちが火星で生活するようになり、地球の人口が緩和することとなる。

そして2つ目。農業の発展に大きく貢献するのではないだろうか?地球と火星に人口が分散されることで、農業用地も増えることとなる。発展するのは農業だけではないだろう。雇用機会や経済発展、多国籍企業の企業活動などが促進され、巨大な利益が生み出されるだろう。

おいおい、勘違いもはなはだしいぞ(^_^;

 火星に人類が足跡を残せるのは、おそらく10年では無理。
 火星に移民できるようになるのには、科学技術が停滞なく進歩したとしても、100年では無理だろう。これまでの宇宙開発でも、たびたび停滞しているのが現実だから、よりリスクが高く、コストもかかる火星への宇宙旅行は、予定を大幅に遅れるのは必至だ。
 技術的に可能なことと、政治的、社会的に可能なことは連動しない。それは環境問題と同じだ。石油に代わるエネルギーや技術はすでにあるけれども、大転換して石油を捨てることはできない。コストや利害が絡むからだ。
 スタートレックではないが、24世紀くらいなら技術的にもコスト的にも、火星に今よりも容易にいけるようになっているかもしれない。火星に移民して人口問題を解決するとか、食糧問題を解決するとかいった話は、楽観的に見ても数世紀は先の話である。

 上記の記事の書き方だと、10年後に火星移民が可能であるかのように受け取れる。
 そんなことは99.9%ありえない(^_^)
 0.1%の可能性は、地球を脱出しなくてはならないような地球規模の災厄が来て、人類としての種の保存のために、男女を乗せて決死の覚悟で火星に向かうか……だが、10年以内に、火星まで大人数の人間を運べる宇宙船が造れる可能性は少ない。
 あるいはもっとありえない話として、異星人の訪問で彼らの助けを借りるかだ。
 そうした可能性は極めて低い。

 仮に24世紀くらいに、技術的に火星移民が可能になったとしよう。
 しかし、その移民は片道切符だろう。火星までは遠く、行き来は容易ではない。理論上の核融合エンジンを実現したとしても、コストと渡航に要する時間は膨大だ。最短距離でも、片道に数ヶ月はかかってしまう。アメリカ大陸に、個人レベルで大挙して移民したのとはわけが違う。
 現時点で火星の土壌についてわかっていることでは、毒性が強いようなので、農地には適さないだろう。
 また、経済活動についても、地球との交易が容易ではないことから、火星は自給自足するしかない。地球と火星の間で物資を輸送するには、そのコストに見合うものでなければ経済は成り立たない。
 地球-火星間を、日本-アメリカ間なみに数時間で移動できるのなら、経済関係も成り立つが、そのための移動手段がない。ワープエンジンでもあれば話は別だが、それは未だにSFの世界の想像物だ。
 火星に移民したら、それっきり、孤立した世界になるだろう。通信に関しては火星と地球の位置関係で変わるが、40分くらいはかかる。リアルタイムの情報交換はできないので、経済活動も大きく制限される。
 それでもなお、移民する理由、しなければならない理由が、社会に生じるかどうか……も疑問ではある。

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