「彼氏彼女の生態」

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彼氏彼女の生態

彼女はひときわ背が高く、駅のホームに並ぶ人たちの中でも目立っていた。すらりとしたスレンダーなスタイルはモデルのようだ。

たまたま彼女の立っている場所は、私がいつも並ぶ場所だった。彼女のうしろに並ぶと、背の高さをより実感する。私の身長は178センチほどだが、彼女の目の高さが自分とそれほど違わない。おそらく172〜3はあるだろう。ファッションモデルの条件に、170センチ以上の身長が必要というのがあるらしいが、彼女は十分に条件を備えていた。

近頃の女性はかなりスタイルがよくなった。背の高い人も多い。とはいえ、私と目の高さがさほど違わない人は少ない。電車に乗ると、私は周囲の人よりも頭ひとつ分上にでていることになる。多くの女性は周りの乗客の中に埋没している。

うちの妻も背は高い方ではないため、耳を傾けるときには、腰を屈めて頭を下げなくてはいけない。それが日常的になっているので、頭を下げずに相手と目線が合うというのは、ちょっとしたセンスオブワンダーである。

スレンダーな彼女は、やはり平均よりは背の高い女性の友人と話をしていた。背の高い女性は、同様に背の高い女性といることが多いような気がする。その逆もしかりである。

彼女の声は耳に優しい、澄んだ声だった。流行りの語尾上げ口調で話すわけでもなく、ナチュラルで語感のよい話し方だった。私はそこに彼女の知性と性格のよさを感じた。スタイルがいいだけではなく、内面的にも魅力的な女性なのだろう。

別に変な意味ではないが、こういう女性とすれ違うと得をしたような気分になる(笑)。勝手な想像ではあるが、私のキャラクターファイルの中に記憶した。

・キャラ分類:スレンダー流麗ボイスの女性。外見的美しさと、知性的な魅力も備えている。

東急田園都市線で渋谷へと向かう車内。

高校生らしい制服を着た彼女は腰かけていた。多くの制服がそうであるように、ミニスカートだ。

彼女は俳優の安達祐美に似ていた。目が印象的で、少女っぽい顔立ちの中に、ほのかな色気を含んでいる。

綺麗な娘だと思った。しかし、怖れを知らないような目つきからは、性格的にきついものを感じた。

それは座り方のポーズにも現れている。イスに浅く腰かけ、やや足を広げて投げ出すように座っていた。少女っぽい顔つきとは不釣り合いで大胆なポーズだ。頼むから、向かいに男たちが座っているときに、そんなポーズはやめてくれ(笑)。君は気がついていないかもしれないが、ミニスカートから伸びる均整の取れた足は、十分に刺激的なのだ。

彼女は活発で大胆で、いいたいことははっきりいう性格なのだろう。男子にももてるだろうし、人気者かもしれないが、同時に気の強さが災いして孤独感も感じているだろう。どこか憂いある表情が、大胆さとは対照的だった。

彼女は、私が書いたある物語の主人公のイメージに近かった。現実に、自分の作ったキャラクターと出会ったような気がした。

・キャラ分類:憂いと色香のある美少女。外見的な好印象とは隔たりのある内面を有する。

ふたりの若い男女は、電車のドアの脇に、並んで立っていた。ともに赤いTシャツを着ている。ペアルックなのだ。

男性の方はドア側にもたれかかり、女性は彼を守るかのように背を向けていた。なにか会話をしているわけでもなく、彼はうつむき、彼女は彼を見つめている。

ふたりの関係をあきらかだった。主導権は彼女が握っているのだ。顔を見ると、彼は気の弱そうな顔立ちであり、彼女はキリリとしていた。

人目をはばからずにいちゃいちゃする男女をラッコ族というが、それほど露骨なふたりではなかった。しかし、深い関係がありそうなことは沈黙が物語っていた。

こういうカップルは、衆目の中では控えめな関係だが、ふたりだけの時には意外と男性が強い態度にでる。男女間で、男性の側が暴力を振るったりする場合に多いタイプだ。

電車を降りて、彼女が彼の手を引いて歩いていく姿が印象的だった。

・キャラ分類:女性主導型カップル。親密な関係だが、相互依存が強い。

夕方の満員電車で、彼はふんぞりかえって座っていた。両足は大きく広げて投げだされ、両隣の人に接触している。前に立つ人の邪魔になることも気にしない。

私はそれとなく邪魔な足に接触して、注意をうながすが引っこめる気配はなかった。いっそのこと思いっきり足を踏んでやろうかと、危ない衝動に駆られる。しかし、彼のような輩は、自分のことは棚にあげて、すぐに切れるタイプだ。そして、逆の立場に立つと、邪魔な相手に露骨な不快感を示すのだ。

顔つきには無神経さがにじみでていて、わがままで自分勝手であることがうかがえた。

顔はもっとも顕著な人間性を表す。特に目と口元から性格が読みとれる。性格は表情として顔の筋肉を動かす。普段から使われている筋肉の違いから、顔つきが変わるのだ。ある個人で、骨格が変わらないのに顔つきが変わるのは、使われている筋肉が変わるからである。憂鬱な表情ばかりを浮かべていると、顔の筋肉もその形に定着する。逆に笑顔が多い人は、表情筋がよく動いて柔和な顔つきになる。顔はその人の履歴書でもあるのだ。

犯罪者の顔がいかにも犯罪者のように見えるのは、表情筋が不安や怯えで定着しているからなのだ。

くだんの彼は、口をポカンと開けて頭をそらせ、いねむりを始めた。弛緩した体が、さらに隣の席に座った人へと傾く。体重を傾けられた人は、怪訝な顔をしながらも、我慢していた。よく見かける光景だ。

普段はあまり満員電車に乗ることもないが、多くの人が不快感にも我慢しているね。あたりまえの状況になっている感があるが、注意しようものなら逆切れされかねない。不運だったと堪える方がいいのだろう。

電車内に、「マナーを守りましょう」というポスターが貼られている。いつも思うのだが、彼のような人間には守るべきマナーなどもともとないのだ。マナーなど気にしない人間には無意味なポスターだ。

むしろ「こんなことをするあなたは、バカです」と警告してやった方がいい(笑)。自分をバカにされることは、マナーのない人間でも腹が立つからだ。

・キャラ分類:自己中心的知性欠損型。自分は人より上だと思っているが、バカさ加減も同時に露呈する。

一日のうちにすれ違う人を観察するのは興味深い。彼らとはもう二度と会うこともないだろうが、私の作品の中で形を変えて登場するかもしれない(笑)。

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