「鉄血のオルフェンズ」についての解釈

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鉄血のオルフェンズ

 ガンダムのシリーズの中でも、異色の作品となっている「鉄血のオルフェンズ」。
 それについての考察というか、解釈の記事があったのだが……

「鉄血のオルフェンズ」と「優しい家父長制」 – 狐の王国

本作で中心的に描かれるのは「差別」と「家父長制」である。

阿頼耶識システムを埋め込まれた彼ら「宇宙ねずみ」も不当な差別を受けるが、さらにひどいのは「ヒューマンデブリ」と呼ばれる人身売買されてきた孤児たちだ。

 詳しくはリンク先を読んでいただくとして。

 「鉄血のオルフェンズ」が面白いのには同意する。
 ある作品をどのように受けとめるか、どこに面白さを感じるか、どう解釈するかは、見る人の勝手ではある。十人十色というか、解釈は人数分だけある。
 制作者の意図というのは、見た人の解釈とは別のところにあったりもする。
 ネットからいくつかの制作サイドの発言を拾ってみると……

10月放送新番『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』谷口廣次朗×小川正和スタッフインタビュー | V-STORAGE

──主人公の所属は軍ではなく民間警備会社ですね。

谷口 主人公たちがグループで戦っていくというのは当初から考えていた部分です。ストーリーが進んでも軍隊に入ることはありません。彼らは兵士ではないので、別に戦争に参加するわけじゃなく、ただ生きるために、日々の糧を得るために地球を目指します。その中で否応なしに戦うことになるわけです。

小川 逆に、そこが狙いのひとつなんです。今の十代、二十代の視点に合わせると、地球連邦軍なんて大きな組織の中で物語を描くよりは、仲間たちの小さな集団の中で彼らがどう生きていくのかを描く方が現実味があるんじゃないかと考えたんです。だって今の若い人には「地球のため」とか「国のため」なんてあまり現実的じゃないでしょ。

谷口 『オルフェンズ』の世界は非常に厳しい世界ですが、主人公の三日月・オーガスたちは、いつも陰鬱とした顔で過ごしているわけではなく、笑顔になるために毎日を頑張って生きているんです。仲間たちと楽しく生きたい。これって今の若い人と同じなのかもしれませんね。

鉄血のオルフェンズ長井龍雪監督のロングインタビューの要約と感想 ① 

-オルフェンズ制作秘話

オルフェンズに限らずガンダムシリーズのテーマとして「戦争」というのがあります。しかし、戦争は現代人にとってはイメージがしづらい。ファーストガンダムの頃とは違って、戦争はもう身近なものではない。視聴者に戦争をどう感じてもらうか、それを表現することは難しかった。

-実は時代劇の要素が入っている

実は時代劇を意識していて、時代劇が持つ展開だったり、セリフ回しの良さなどを盛り込んでいます。
話の流れは基本的にクーデリアを地球に連れて行くだけという、オーソドックスな展開なんです。

  狐志庵氏の解釈である「家父長制」というのは、やや深読みな気がする。そう見えるのは、制作者が下敷きにしているという時代劇の構図からきていると思われる。
 「差別」の描写については、これは物語世界を構築するときの、「制約」や「動機付け」としての設定だろう。キャラクターがあらゆる面で恵まれていて、平和で豊かな環境に生きている設定だと、戦う理由や火星から飛び出す理由がなくなってしまう。
 主人公たちは、現状から抜け出すための動機が必要だ。それは身分としての差別であったり、生きていく環境としての厳しさであったりする。主人公たちは、困難で不遇な運命を背負っている必要があり、そこから抜け出すための試練として「戦い」がある。
 それが、彼らの境遇の制約や束縛となる。
 物語を作る上で、この制約をいかに巧妙に仕組むかが、物語世界を破綻させない条件になる。

 「鉄血のオルフェンズ」では、ガンダムは遠い昔の過去の遺産的なものになっている。火星はテラフォーミングされていて、多くの移民が生活している環境だ。テクノロジー的には、かなり進歩しているはずだが、描写としては従来のガンダムからそれほど進歩しているようには見えない。
 火星から地球に向かう宇宙船は、さほど時間がかからずに到達してしまっている。宇宙船のエンジンは「エイハブ・リアクター」という仮想のエネルギー源になっているが、最高速度などの航行性能は明らかにされていない。作中の描写では、あまりスピード感を感じないのだが、中間点まで1Gの加速で残りを1Gの減速をした場合は約2日の航行だ(地球↔火星間が最短距離のとき)。その場合の中間での速度は、約86万m/s(時速309万6000km)という、とんでもないスピードだ。
 直線的な航路ではなく、途中で寄り道したりもしているので、火星→地球間の航行には、少なくとも数か月はかかると思われる。火星と地球の位置によっては、もっとかかってしまう場合もあり、もっとも距離が短くなる「衝」のタイミングは、2年に一度しかない。宇宙船の航続距離や航行時間を考慮すれば、クーデリアは最大で2年待たなければいけなかった。
 感覚としては、地球上でイギリスから日本まで、喜望峰を回ってタンカーで航行するようなもの。火星と地球の距離感は、ほとんど無視されていた。

 地球までの航行が、数日~数週間で可能だとすれば、宇宙船(イサリビ)は前述したようにかなり高速で飛ばなければならず、それに対して敵対勢力が追撃したり戦闘したりするのは、かなり困難。時速100万~300万kmで飛ぶような宇宙船がすれ違いざまに攻撃をしかけるなど、無茶な話(^_^)。戦闘可能な接触時間は、射程距離を考慮しても、ほんの数秒だろう。
 逆に、そういう超高速での宇宙船戦闘シーンがあれば、それはそれで面白いのだが……。

 ファーストガンダムの頃から、母艦となる宇宙船のノロノロ感は相変わらずだ。速く飛び去ってしまうと、戦闘はできないし、話として盛り上がらないからだろう。
 基本的に、ガンダムのストーリー展開は「ロードムービー的」だ。車の代わりの宇宙船であり、行った先々でトラブルに遭遇し、解決策として戦闘をする。
 インタビューの中で、「ファーストガンダムの頃とは違って、戦争はもう身近なものではない。視聴者に戦争をどう感じてもらうか、それを表現することは難しかった。」ともいっているが、それがテロのような攻撃であったり、国ではない組織同士の戦いだったりしている。そういう意味では、現代の世界情勢を反映しているようにも思える。

 ガンダムの生みの親である富野監督は、キャラクターの行動や言動に富野哲学とでもいえるようなメッセージ性を持たせてきたが、富野監督以外のガンダムにはメッセージ性は薄く、物語としての面白さやキャラクターの魅力が前面に出ている。
 「鉄血のオルフェンズ」も、キャラクターの魅力に比重があり、物語世界はキャラクターたちの立ち位置を明確にするための背景でしかない。特異な境遇である方が、キャラクターの性格や生い立ちを際立てやすいからだ。名瀬がハーレムを作っているのは、女性キャラをたくさん出すための、面白い設定以上の意味はないように思う(^_^)。
 ともあれ、物語は終盤に入っているので、どういう結末になるのか、見届けたい。

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