核燃料デブリ→「地底臨界」の危機??

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週刊プレイボーイの原発関連記事が、かなり危機感を煽っているというか、扇動的になっていた。
Twitterや記事につけられたコメント欄で、プチパニックになっている様子。

“フクイチ”で新たな恐怖! 海外の研究者や政府関係者が不安視、苛立つ最悪の「地底臨界」危機進行中? – 社会 – ニュース|週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト]

4月3日から福島第一原発2号機の格納容器の温度が約20℃から70℃へ急上昇し、2日後には88℃に達した。

それと連動するように、原発周辺の「放射線モニタリングポスト」が軒並み高い線量を記録。復旧したての常磐自動車道・南相馬鹿島SA(サービスエリア)で通常の1000倍にあたる毎時55μSv(マイクロシーベルト)を最大に市街地各所で数十倍の上昇が見られた。(前編記事→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/04/27/46919/

これは一体、何を意味するのか? 考えられるのは、原発内の核燃デブリ(ゴミ)が従来の注水冷却工程に対して異なった反応を示す状態に変化した可能性。例えば、デブリが格納容器下のコンクリートを突き抜けて地盤まで到達(メルトアウト)し、地下水と接触するなどだ。

(中略)

「メルトアウト」または「チャイナ・シンドローム」とは、核燃デブリが原発施設最下層のコンクリートすら蒸発させ、地中へ抜け落ちていく状態で、それが現実化するかどうかは後藤政志博士が語ったデブリの温度次第だ。1~3号機内では4年後の今も各100tのデブリが4000~5000℃の高温を発し、メルトアウトの危険性が高いと説く海外研究者もいる。

例えば、「IAEA(国際原子力機関)」の“不測事態の管理技術会議”は、2012年時点でデブリが格納容器と下層コンクリートを溶かし、自然地層へ抜け出た可能性を指摘している。具体的にはデブリが施設地下6、7mまで沈み、直径10~15mの大穴の底にたまっているというのだ。

(中略)

琉球大学理学部の古川雅英教授(環境放射線学)は、こう分析する。

「そうした自然界の臨界現象は、アフリカ中西部のウラン鉱山(ガボン共和国オクロ)で20億年前に起きており、当時の地層が海底にあったことが中性子による核分裂反応を少なくとも60万年間にわたり持続させたようです。その点では、大量の地下水が流れる福島第一原発の地質構造も共通した条件を備えているかもしれません」

(中略)

事実、この悪夢のような破局シナリオが決して絵空事でないことは、他の科学的事実からも裏づけられる。

そのひとつ、CTBT(包括的核実験禁止条約)に基づき「日本原子力開発機構」が群馬県高崎市に設置した高感度の放射性核種監視観測システムには、昨年12月から福島第一原発の再臨界を疑わせる放射性原子、ヨウ素131とテルル132が検出され続けている。

また福島第一原発2号機横の観測井戸では、今年に入って新たな核分裂反応の再発を示すセシウム134とトリチウムの濃度が高まるばかりだ。昨年秋に開通した国道6号線の第一原発から第二原発までの12㎞区間でも高線量が続いている。

記事中で過去の例として触れられている、20億年前の「ガボン共和国オクロのウラン鉱山の天然原子炉」については、Wikipediaを参照。

オクロの天然原子炉 – Wikipedia

記事全体の印象として、可能性の可能性の可能性……と、かなり曖昧な部分が目立つ。「科学的事実」という言葉を使っているが、それは観測できるデータを示しているのであって、地底臨界が起こることを確証させるものではない。
古川雅英教授の意見が紹介されているが、「……かもしれません」と可能性はゼロではないといっているだけで、確信しているわけではない。これは科学者としては当然の発言だろう。科学は、万に一つ、数兆に一つでも可能性があるのなら、その可能性は否定しないからだ。そういう意味では、この発言は誘導尋問的に引き出されたものだともいえる。
この記事の問題点は、地底臨界が起こる可能性の確率的数字を示していないことだ。
それが、10分の1なのか、10000万分の1なのか、1000000分の1なのかで、危険度の度合いはまったく異なる。

たとえば、交通事故による死者数は、年間4,113人(2014年)なので、人口1億2691万人(2014年4月1日現在)に対して、約0.003%の確率になる。これは宝くじの1等に当たる確率よりも高い。

「今日、あなたが交通事故に遭って死ぬ確率は、0.003%あります。これは隕石が落下して死ぬ確率(0.000004%)よりもはるかに高い危険度です。外出するのは自殺行為です」

……といわれたら、真に受けるかどうか。
交通事故で死ぬ確率が1000分の3(333分の1)だからと、外出するのが恐いと家に引きこもる人は希だろう。
原発だから、放射能だから恐い」というイメージが先立っているから、可能性があるということだけで恐れてしまう。

1~3号機内では4年後の今も各100tのデブリが4000~5000℃の高温を発し、メルトアウトの危険性が高い」というのも、推測、可能性の話であって、デブリの温度がどのくらいかを計る術がない。
コンクリートの融点は1200℃くらいとされているので、4000~5000℃あれば溶けていてもおかしくない。ただ、溶けるということはコンクリートが不純物として混ざることにもなるので、温度は下がる。
コンクリートが溶けている可能性は、早くから指摘されていた。

水野解説:原発1号機で溶け落ちた燃料は | NHK「かぶん」ブログ:NHK

これまでの解析でも、溶けた燃料が格納容器にまで落ちていることはわかっていましたが、東京電力は、それは一部にとどまっていると説明してきました。ところがあらためて解析した結果、1号機に関しては最も厳しい評価をすると大部分の燃料が格納容器に落ちて、コンクリートも溶かしていて、最も深いところで65センチにまで達していると言うことなんです。

問題は、その後、コンクリートを突き抜けたかどうか。
原子炉内に核燃料が残っているかどうかを、ミューオンを使って調査が行われたが……

福島第一原発2号機の炉心溶融を証明-名大と東芝、宇宙線ミュー粒子で原子炉を透視:日刊工業新聞

名古屋大学の森島邦博特任助教、中野敏行講師、中村光廣教授らは、東芝と共同で、原子核乾板を使って宇宙線ミュー粒子(ミューオン)を測定することで、東京電力福島第一原子力発電所2号機の原子炉内部を透視した。これにより、2号機の透視画像の炉心領域の物質量は、健全な燃料が現在も炉内に存在する5号機よりも少ないことが判明。シミュレーションで示唆されてきた炉心溶融が実際に起こっていることを裏付ける結果が得られた。

このときは、観測対象を原子炉にしていたため、炉内には残っていないことがわかったものの、どこまで落ちているのかはわからなかった。
ならば、観測対象を広げる必要がありそう。
原子核乾板自動解析システムの開発と応用」によれば、地中の対象に対しても有効のようだ。

原子核乾板自動解析システムの開発と応用

原子核乾板自動解析システムの開発と応用


この方法で、デブリの位置を特定できるのなら、コンクリートを突き抜けているのかどうかがはっきりする。それは早急に調査した方がいい。

核燃料デブリがむき出しのままになっているわけだから、核反応は続いていることは間違いない。それが連鎖反応を起こす「再臨界」になっているかどうかは、確定的なことはわからない。
いずれにしても、現状は正確には把握されていないし、コントロールできる状態ではないとはいえる。

先日発表された「エネルギーミックス」では、原発再稼働を前提としていた。

法制度・規制:再エネと原子力ともに20%超で決着、“暫定的な”2030年のエネルギーミックス (1/2) – スマートジャパン

 2030年に原子力の比率を20%まで高めるためには、年間の発電量を2168億kWh(キロワット時)以上に拡大する必要がある(図2)。現在までに廃炉が決まった設備を除いて全国に43基ある原子力のうち、36~37基程度を運転させなければならない。このような状態が現実的かどうかはともかく、電力会社にとっては再稼働に向けて追い風になる。

その理由が、CO2排出量の削減目標にあるわけだが、前々から書いているように、CO2排出と放射性廃物の排出と、どっちがいいのか?って話。

参考記事→「環境負荷係数の総体で考える必要があるのでは?
※福島の原発事故が起こる前に書いた記事。

CO2を処理することは、コスト的な問題を別にすれば技術的に可能だ。一例として、人工光合成の研究も進んでいる。
しかし、放射性廃物の保管・処分方法の技術は確立されていないし、どこに処分するかも決まっていない。核のゴミはたまり続けていくわけで、ガン細胞が増殖するようなものだ。極論すれば、温暖化で死ぬのがいいか、核汚染で死ぬのがいいかの二択だともいえる。

週プレの記事は、扇動的な書き方で、釣りとしては効果的だ。ただ、同誌の特徴である水着や下着のエロアイドルの写真と並べられていると、いまいち緊張感がないというか、真実味が薄れてしまうのだが……

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