大飯原発についての判決は幼稚なのか?

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大飯原発

大飯原発(Wikipediaより)

 先日出された大飯原発の運転差し止めの判決について、池田先生はかなりお怒りのようである。私は池田先生の記事を愛読しているファンなのだが、この記事については疑問符がたくさん頭上に浮かんだ。

池田信夫 blog : 大飯原発についての幼稚な判決

大飯3・4号機の運転を差し止める福井地裁の判決は、現実的な影響は何もない。

(中略)

裁判所が「人格権」を根拠に差し止め命令を出しても、法的拘束力はない。

(中略)

田舎の裁判所が、勝手に安全基準を変えることはできない。

(中略)

今回のような幼稚な判決では、名古屋高裁でもくつがえるだろう。

 いやはや、ケチョンケチョンにいわれている(笑)。
 「田舎の裁判所」とは、ずいぶん侮辱的だし、それが「幼稚」だとは手厳しい。
 私は脱原発を支持しているわけではないが、原発再稼働に諸手を挙げて賛成しているわけでもない。

 幼稚な判決で、法的拘束力はなく、上級審ではくつがえるから「無意味」といっているように受け取れるが、無意味だから幼稚なのだろうか?
 そうだとしたら、裁判はなんのためにあるのだろうか?

 幼稚であることの理由のひとつとして……

基準地震動を超える地震が来た5回のうち、地震で破壊された原発は1基もない。福島第一は基準地震動をはるかに超える大震災でも、緊急停止したのだ。事故の原因は、津波による予備電源の浸水である。

 ……とあるが、津波が来る前に、地震そのもので設備が破壊されていた可能性も指摘されている。

神戸新聞NEXT|社会|福島第一元作業員の「遺言」詳報 東電、信用できない  

 東電は「全電源喪失と地震の揺れは無関係」と言っているが、そんなのあり得ない。謙虚に検証する姿勢がないと、安全神話が復活する。

 そもそも、運転開始から40年になる1号機の老朽化はすごかった。重要器具は定期検査で交換するが、周辺の装置はそのままだ。追加、追加でどんどん配管を増やし、耐火構造にするために防火剤を塗りつけるから、重量は半端じゃなかった。設計基準を大幅に超えていたはずだ。

地震直後、圧力容器破損か 福島第1原発1号機 – 47NEWS(よんななニュース)

東京電力福島第1原発事故で、東日本大震災の地震発生直後に1号機の原子炉圧力容器か付随する配管の一部が破損し、圧力容器を取り囲む原子炉格納容器に蒸気が漏れ出ていた可能性を示すデータが東電公表資料に含まれていることが25日、分かった。

 1号機への揺れは耐震設計の基準値を下回っていたとみられ、原子炉の閉じ込め機能の中枢である圧力容器が地震で破損したとすれば、全国の原発で耐震設計の見直しが迫られそうだ。

 記事としては古いが、これらのことはあまり重要視されず、津波によって破損したというのが定説になっているようだ。東電も政府も「津波説」を採用しているため、地震の揺れで破損した(かもしれない)説を否定している。
 テレビ朝日の「ニュースステーション」が、このところ「地震破損説」を追っかけているようで、今後の展開には注目したい。

 安全基準というのは、「絶対安全」を保障するものではないことは当然だ。
 基準には「範囲」があり、その範囲内であれば「安全」といっているにすぎない。範囲を超えた場合……つまり、想定外の場合には安全は保障していない

 しかし、事故は想定外だから起きるのだ。

 原発事故以前の安全基準を、より厳しい基準に書き換えても、その想定を超える事態というのは起こりうる。
 大きな事故や、世間の注目を集める事故が起きると……
「二度とこのような事故を起こさない」
 ……というのが、定型句になっているが、二度目がなかったことの方が少ない。
 事故は繰り返し起こるものなのだ。完璧な安全対策など、ありえないからだ。
 近い将来に予想されている首都直下型地震や相模トラフ、南海トラフなどで、100年に一度、1000年に一度の大地震が発生すれば、新基準をクリアしているはずの原発でも、事故は起こりうるだろう。
 その場合、「想定外」の事態が原因になる。
 地震の規模が大きすぎるという想定外だけでなく、対処法の人為的なミス、手抜き工事による欠陥、思わぬ誤作動など、想定できないことはたくさんある。

 判決が幼稚だというが、では、東電や政府の対応は成熟した大人の対応なのだろうか?
 事故後、場当たり的な対応でトラブル続きだし、汚染水のためにタンクを増設に次ぐ増設で、敷地がタンクで埋まってしまった。廃炉のための道筋もノウハウがなく、手探り状態。現場の人材は不足していて、不慣れな人がやっているためにトラブルがトラブルを呼んでいる。
 これは幼稚な対応というのではないだろうか?
 政府は政府で、コントロールできていると公言するし、再稼働ありきで経済や産業界の要請を優先している。原子力規制委員会は政府のイエスマンになっている感があり、田中俊一委員長の会見を見ているとやる気のなさそうな答弁(そういう性格なのか?)には、一抹の不安を覚える。手順を踏むための茶番劇に見えてしまう。
 これが幼稚ではない大人の対応なんだろうか?
 狡猾という意味では、大人の対応なんだろうけどね。

 原発の優位性を示すためにいわれてきたことは、
(1)コストが安い
(2)二酸化炭素の排出を抑制できる
(3)効率がよい
 といったことが挙げられてきたが、コストの中には放射性廃棄物の保管や処理については計算に入ってないし、老朽化した原発の廃炉のコストも入っていない。
 二酸化炭素の排出は抑えられるかもしれないが、放射性廃棄物は出てくる。(2)を利点として挙げるのなら、「排出されるのが二酸化炭素よりも放射性廃棄物の方がよい」という根拠を示さないといけない。だが、そのような根拠が示されたことはないと思う。
 私には、原発の利点を説明する根拠が幼稚に思える。

 新しい安全基準で原発を再稼働するのなら、
「安全基準の範囲内での安全は保障する。しかし、安全基準で想定した以上の地震や津波が来た場合には、安全は保障できない」
 と、明言すべきだろう。
 ようするに「絶対安全」とは保障しないということだ。
 それで国民を納得させられるのなら、再稼働するのに合理性が成立するのではないだろうか?
 再稼働には経済界・産業界からの強い要請もあるようだから、原発の敷地内に、経団連や資源エネルギー庁の幹部を顧問として常駐させるのはどうだろうか?(その場合、下っ端ではトカゲの尻尾で説得力がない)。安全のための人質作戦だ(笑)。原発を推進したい人たちが、原発の現場いれば、本気で安全性を考えてくれるだろう。そうすれば、安全をアピールすることにもなる(かもしれない)。

 ともあれ、池田先生の論法でいえば、田舎の裁判所だけでなく、東電も政府も幼稚なのではないか?
 池田先生みたいな大人は、東電、政府、裁判所、原子力規制委員会の中にはいないのか?
 大人の判決、大人の対応とは、どういうものなのか?
 私も幼稚なので、池田先生に教授していただきたいと思う。

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