ネット上には「無料」のものが多くある。
なんでもかんでも「無料」だから、価値あるものに対価を払うという意識が薄れていく。
フリーミアムといった考え方もあるが、これはいいことばかりでもない。

参照→フリーエコノミーはいずれ破綻する

無料で始められるゲームでの課金制度などはフリーミアムの成功例ではあるが、コンテンツ販売では広告モデルを主軸としたフリーミアムがあるものの、成功例は少ないようだ。参照記事の中に取り上げた無料本は、一時期注目はされたものの、その後、続々と成功例が続いたわけではない。

私はストックフォトのフォトグラファーでもあるのだが、ストックフォトを無料で提供しているサイトには、ちょっと危機感を感じている。

「もっと自由に使える素材を」――“やせ我慢”でも無料を貫く写真素材サイト「足成」 (1/2) – ITmedia ニュース

 商用・個人利用問わず、完全無料、著作権表記フリー。人物モデル写真の肖像権もクリア済み――そんな写真素材サイト「写真素材 足成」が、8月に7周年を迎える。

(中略)

ほぼ毎日更新を続け、これまで公開した写真は7万6000点超、利用者は月間約20万人。写真は個人ブログやコラム・ニュースサイトなどWeb上だけでなくテレビや紙媒体にも利用され、広がりは増す一方だ。収入源は広告バナーのみで売り上げはごくわずか。運営の負担は増しているが「やせ我慢」で無料を貫いていると、運営元のWebデザイン会社・エイムデザインの日野諭社長は笑う。

危機感というのは、写真を利用するユーザーと、写真を仕事とするフォトグラファーの、両方の立場に対してだ。

写真を利用するユーザーとしての危機感

私はグラフィックデザイナーとして、出版・印刷業界に長く関わっているから、ストックフォトを使う側の立場でもある。今も昔も、制作のための予算は限られているから、コストをできるだけ下げる必要性は十二分に理解できる。使う写真が「無料」なら、クライアントも予算がかからず喜ぶことは事実だ。往々にして、クライアントは制作費をケチろうとするものだ。

デジタルカメラ以前の、フイルムカメラ時代はレンタルフォトの価格は高く、制作費の中で写真の費用はかなりの割合を占めた。また、レンタルフォトに要求通りの写真がなければ、撮影しなくてはならず、さらにコストがかかった。だが、フォトグラファーにとっては実入りのいい仕事であり、ストックフォトでもけっこうな収入になっていた。

デジタル時代になって、デジタル一眼の写真の質が高まってくると、急速にデジタルへの移行が進んだ。その背景は、出版・印刷業界が、DTPによる電子化が浸透していったからだ。

しかし同時に、デジタル化はストックフォトの低価格化を加速した。フイルム時代は1点数万円だったものが、デジタル写真ではサイズによっては数千円~数百円にまで下落した。加えて、専業のプロだけではなく、アマチュアも参入することとなり、価格の下落とともに過当競争も進むことになった。

使う側としては、安いことはいいことではあるが、写真の質も落ちることは妥協しなくてはいけない。また、クライアント側も、少々質の悪い写真でも、安ければいい、という感覚になっている。クオリティの高い写真に、高い料金を払うことを忌避するようになった。全部が全部そうではないが、「いい本、いい広告を作ろう」という意識が薄れてきてしまったと感じる。予算の範囲内で、妥協は必要なのだが、その妥協点があまりに低く設定されてしまっている。

そんな現状では、優秀なクリエイターは育たない。クオリティを追求する意識が薄いから、安易に妥協してしまう。それでよし……とする風潮があるから、それ以上のものは求めない。一握りの有名デザイナーを別にすれば、業界の大多数を占める普通のデザイナーのレベルは下がっているように思う。

また、無料写真を使うようになると、著作権意識も希薄になっていく。
出版・印刷業界は、著作権とは関わりが深い。自分たちの作ったものの著作権が脅かされると、すぐさま反応する。著作権意識は高いともいえるが、その一方で、他者の著作物に関しては鈍感だったりする。その顕著な例が、盗作やパクリが度々発覚することだ。

著作権には敏感のはずの出版関係者が、どこからか拾ってきた画像を素材として持ってきたりする。それが前述の記事の「足成」 ならまだわかるが、出所の知れない画像を平気で持ってくる。ネットにあるものは「無料」だという意識があり、勝手に使ってもいいと勘違いしている場合も多々ある。
「これは使えないでしょ」というと、「じゃ、トレスしてイラストにして」と、これまた平然という。それはパクリだという意識もないらしい。
極端な例ではあるが、そういう出版関係者もいるんだ。

無料写真の試みはすごいとは思うが、弊害もあることは危惧する。
価値あるものには、対価を払う」という意識を、失わせてしまうのではないかと。

写真を仕事とするフォトグラファーとしての危機感

ストックフォトの価格の下落は、フォトグラファーとしては嘆かわしい。専業のプロでなくても、ストックフォトに参加できるようになったのは喜ばしいことではあるが、写真で食っていくのは容易ではない。前述したように、フイルム時代はストックフォトだけでもかなりの収入になっていたが、現在ではあまり儲からない……とは、フイルム時代からストックフォトに写真を提供していた知人の弁。

「足成」は無料写真を提供し、サイトの広告だけで運営しているようだが、その広告収入は微々たるものらしい。
私としては、「やせ我慢」しないでほしいといいたい(笑)。

価格競争の最たるものが「無料」なのだが、他のサイトでも期間限定とか、会員限定で一時的な無料セールはやっているものの、全作品、無期限で無料をされたら、有料のサイトは不利な競争を強いられる。

これは「ダンピング」には該当しないのだろうか?……と疑問に思う。

不当廉売 – Wikipedia

日本においては、独禁法が不公正な取引方法を規制している。そのうち、不当廉売は、公正取引委員会の一般指定6項において不公正な取引方法に指定されている。

一般指定6項が定める不当廉売行為とは、

●正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給する行為
●その他不当に商品又は役務を低い対価で供給する行為

であって、

●他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

を指す。

不当に安い価格で商品を販売することは、その時点では消費者に利益があるように見える。しかし長期的視野で考慮した場合、結果として資本力の強い者が弱い者の事業活動を困難にし、市場の健全な競争を阻害し、最終的には消費者の利益を害する可能性が高い。そのため独占禁止法ではこれを禁止し、公正取引委員会による是正措置の対象にしている。

これに該当するようにも思えるのだが……。

無料ゲームのように、無料で遊べる範囲が限定されていて、それ以上のことをするには課金といったビジネスモデルではない。低品質のものを無料で提供して、高品質のものは有料、というわけでもない。
無料写真は提供される写真で完結しているので、それ以上の展開はない。

多くのストックフォトサイトでは、フォトグラファーはサイトに提供した写真が売れたときにだけ利益が発生する。つまり、サイトとしては仕入れはタダで、売れたときだけ報酬を払えばいいから、原価コストがかからない。サイトによって採用基準は異なるが、クオリティのレベルがブランドの価値にもなっている。

「クオリティは低くてもいいから、無料のもので」と、無茶な要求を出してるクライアントもいる。そうなってくると、有料のサイトのフォトグラファーは、ますます売れなくなる。
品質で勝負……といいたいところだが、品質よりも無料を選ぶ人が少なくないのも事実。
ストックフォトで生計を立てているフォトグラファーにとっては、死活問題になる。

どうせなら、もっと自由に使える素材を提供したい」……ということだが、それは諸刃の剣だ。
自由であることは、コントロールができない事態を招くし、それが……

「もっと自由に使える素材を」――“やせ我慢”でも無料を貫く写真素材サイト「足成」 (1/2) – ITmedia ニュース

 写真素材の活躍の場が広がる一方で、「良くない使われ方」が増えてきたのが悩みだ。素材写真をそのままプリントして販売されてしまったり、モデルの写真が情報商材や出会い系サイトに使われるなど、規約・モラルに違反した使われ方が目立ってきたという。

といった、悪用も引きつけてしまう。

いくら規約やモラルを明記していても、無料で自由であることは、無秩序をもたらす。金を払わないことは、責任をともなわないことにもつながるからだ。世の中、善人ばかりではないのだ。

アマチュアであろうと、プロであろうと、写真はクリエイティブな創作活動だ。
その作品を第三者に提供するのなら、相応の対価を求めるべきだと思う。才能と労力をタダ売りするなってこと。

長い目で見たら、無料ばかりになることは、その分野のプロのクリエイターが育たなくなる危険性をはらんでいる。これは写真に限ったことではなく、小説、マンガ、アート、音楽、映像などの分野にもいえる。

「無料」は、ある意味、「麻薬」と同じだ。
無料に慣れてしまうと、金を払いたくなくなる。質が悪くても、無料のものを選んでしまう。

自分の仕事で無料素材を使うのは抵抗がないだろうが、自分のしている仕事が無料(無給)になってしまったらどうだろうか?
「無給ですが、この仕事をできるのがいきがいです」……と、いえるだろうか?
そうなったとき、どうやって食べていくのだろうか?
無料で衣食住を提供してくれる人がいればいいけどね。


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